日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
維新、希望とイギリスの地域政党~政権交代を阻むもの~

維新、希望とイギリスの地域政党~政権交代を阻むもの~

日本維新の会を、ドイツのキリスト教社会同盟や、イギリスのスコットランド国民党に例える人がいる。キリスト教社会同盟とは、バイエルン州の地域政党である。その前身は中央党から分かれてできたバイエルン人民党であり、中央党の流れを汲むキリスト教民主同盟と姉妹政党として、統一会派を組んでいる。日本で言えば、大阪府の自民党だけが別の政党であり、自民党と共に動き、統一会派を組んでいるというようなものである(大阪としたのは、首都東京に対抗意識を持っているから、そして筆者が今、維新に関して述べているからというだけである)。このような分かりにくい形になったのは、バイエルン州が独立志向の比較的強い州であるからだ。スコットランド国民党は、スコットランドの独立を目指す政党であり、2015年の総選挙で大躍進を果たした。

特定の地域で強い政党であるために、維新などと比べられるのだが、背景はもちろん全く異なる。まず、日本維新の会は大阪の独立を目指しているわけではないし、自民党に寄っているとは言っても、自民党と一体的に動いているというわけではない。そもそも、大阪にも自民党は存在する。日本維新の会はあくまでも、離合集散と選挙の結果、大阪府以外の勢力が、わずかなものとなった、全国政党なのである。地域政党と、結果として特定の地域に偏っている全国政党とは、全く異なるものである。

イギリスから独立したいという人々が多いスコットランドでは、保守政党(保守党)よりはそれに理解がある左派政党(労働党)が強かった。しかし人々の独立志向が強まり、自らの地域の政党を圧倒的に支持するようになると、そこで労働党は、少なくとも以前のようには勝てなくなった。スコットランド国民党は、個々の政策を見ても左派政党だと言えるが、そうでなくても、独立を目指すということは、国の形を変えること、国内の支配者や多数派に挑戦することであるから、その点では左派である。つまり、競合するのは労働党なのである。労働党は、それまで有利であったスコットランドで勢力を弱めたことで、保守党に対抗し得なくなってしまった。かつて労働党に、より理解を示していた自由党が、保守党に対抗できなくなったのと似ている。しかしスコットランド国民党は、全国政党の保守党に対抗することは到底できないし、スコットランドが独立することになれば、外国の政党となる。

以上から、今イギリスでは、保守党を優位政党とする、政権交代の無い1党優位制になる可能性が高まっている。長く1党優位制であり、多くの議席が配分されている大阪府で、維新に阻まれ民進党系があまり議席を得られないことが、自民党の優位性強化の一因にはなっている日本の有権者としては、興味深い事例である。これからどうなるか分からないが、イギリスの変化はあくまでも、(新自由主義的)保守政党と社会民主主義政党の間の政権交代の定着した政治など、基本をおさえた上での変化である。

キリスト教社会同盟やスコットランド国民党と違い、維新や小池新党は、全国政党である(双方とも、地域政党として大阪維新の会、都民ファーストがある)。イギリス、ドイツのように、いくつかの国、領邦が、1つの国が主導する形で合わさってできた国家では、地域の切実な利害を代表する政党が必要な場合がある。日本は沖縄県を例外とすれば、そうだとは言い難い。沖縄だけは、日本に併合された経緯、第2次大戦で戦場となり、1972年にやっと日本に復帰したこと、多くの米軍基地がおかれていることから、カネで世論を変えようとすることも含めて、同県に関心の薄い既成政党の他に、地域政党が必要なのだと言えよう。しかし、大阪、ましてや東京はそうではない。

地域政党があるのは、もちろん悪いことではない。しかしそのブームはすぐに天下を取ろうとすることにつながる。そして野党同士のつぶし合いなどの弊害を生む。このことは念頭に置いておく必要がある。

もちろん、それが優れた政策を持っていれば、天下を取るべきである。しかし、現在の日本維新の会、希望の党のように、失敗に終わった後でさえ、野党第1党の躍進を限定的に阻んでいることは、大問題である。失敗に終わったことは必ずしも能力の問題ではないから、政策が良いのなら、優位政党に陳情する政党、他の野党をつぶす政党としてではなく、それを実行に移す方法を考えるべきである。具体的な方法については改めて述べるが、一定の有権者が支持すれば、可能なことである。そうなれば勢いを取り戻し、「失敗に終わったのではない」ということになるかも知れない。

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