日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
第3極(⑧)~猶興会の不統一~

第3極(⑧)~猶興会の不統一~

猶興会の島田三郎は、公選制であった郡会(~第6章⑦参照~)を廃止して郡役所を残すことは、郡役所を県庁の出張所として、議員選挙を支配しようとするものだという批判をした(『帝国議会衆議院議事速記録』22第23回帝国議会152頁)。そして猶興会は、行政整理を多少なりとも進めるものである郡制廃止法案自体に反対はせず、郡役所廃止の建議案を提出した(島田三郎他2名が提出)。これは、当時の衆議院の最左派らしい姿勢であった。ただし、猶興会にも問題はあった。投票行動が一致しないという不統一の問題も関係があるが(本章2大民党制第3極(⑧)で見たように、前身の政交倶楽部は、重要法案で完全に一致して動くことができず、多数派と異なる投票行動をとる要人もいた)、猶興会として、どのような政権を志向するのかということが、明確でなかったのだ。新民党というものは、当時の最も左(社会民主主義の勢力は帝国議会には存在しなかった)であったからこそ、拘束を嫌い、単一の明確な指導者も置いていなかった。猶興会は、立憲政友会の離党者達による同志研究会を源流とし、無所属議員を加えて拡大してきた勢力であった(20議席でスタートし、約35議席になっていた)。当時の衆議院の最左派の議員達を核としており、またこれに加わった議員達にも、彼らの志向と近い者が多かったと考えられるのだが、会派を政党化することの是非、考えを一致させることはできていなかった。大同倶楽部と違って、多くが薩長閥中心の政権に否定的ではあっても、以前のように、2大政党の双方と組むことを目指すのか、状況の変化を受けてそのどちらか一方と組むのか、どちらとも一定の距離を置くのか、そもそも、他の勢力と組んで政権を目指すのかどうかについて、一致していなかったのである(単独で政権を得ることはもちろん考えられなかった)。

猶興会の議員の投票行動について、表⑨-Aにまとめた。改革が不十分であると見ることもできる法案に対する賛否からは、その政治姿勢をうかがうことは難しい。しかし、猶興会が統一性に欠けていたことは良く分かる。

 

表⑨-A 猶興会所属議員の投票行動

・「郡制」とした郡制廃止法律案については、第2読会を開くことを可とした議員に「○」、否とした議員に「×」、「町村制」とした町村制改正法律案については延期説を可とした議員に否定的であったという意味で×を、否とした議員にその逆で「○」を、前者、後者とも、投票していない議員には「-」を付した。賛否は『帝国議会衆議院議事速記録』二二154~155頁、174~175頁に記されている記名投票の結果に基づく。

・「前の所属」には、同志研究会→無名倶楽部→同攻会→政交倶楽部→猶興会→又新会に所属する前に所属していた会派を記した。無い場合は「-」と記した。板倉は立憲政友会出身、大竹と萩野は新潟進歩党出身、花井の中立倶楽部とは、第6回総選挙後の中立倶楽部である。

・「次の所属」には同志研究会→無名倶楽部→同攻会→政交倶楽部→猶興会→又新会に所属した後に所属した会派を記した。無い場合は「-」と記した。無名会に属した議員は全員、立憲国民党の結成に参加した。次の所属会派が無所属団である議員は全員、その後継である立憲同志会に参加しているため、「立憲同志会」と記した。菊池は再度立憲政友会を離党し、政友倶楽部、亦楽会、亦政会に属した。「同志会」である議員は、そのまま同一の系譜に残ったのだともいえるが、三輪は中正会、加瀬と花井は公同会まで同一の系譜を歩み、花井は後に正交倶楽部に属した。大竹と早速は中正会から憲政会に参加し、大竹は後に革新倶楽部等に属した。

・選挙区の「函館外」は、函館外三支庁管内。

郡制廃止法案に反対の議員が、市部に比較的多いことが分かる(8名中、郡部選出は近江谷、高橋、安岡のみ)。「○」の議員が立憲政友会に寄ろうとしていたと見ることも、できないわけではない。しかしその後の所属を見る限り、そうだとは言えない。だが小川、尾崎、奥田、鈴置、富島、中西、望月、山口といった、同志研究会結成時からの、言うならばオリジナルメンバーを見ると、賛成が多い。その中には、他の法案でも、同志研究会系の多数派と異なり、立憲政友会と同じ投票行動をとっている議員がいる(尾崎、奥田、憲政本党時代の中西。本章2大民党制第3極(⑧)参照)。彼らは立憲政友会の出身であり(奥田は違うが、伊藤系の官僚であった)、立憲政友会に寄ろうとしていたと考えられる(詳しくは第10章で見る)。島田が左の立場から反対したことは分かっている。しかし、島田と異なり町村制改正案の採決で票を投じておらず、後に吏党系(中央倶楽部)に移った浅野と近江谷が、右の立場から反対したということは確かめられない。

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