日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
「民主党系も知事を誕生させて支持を広げろ」と簡単には言えない

「民主党系も知事を誕生させて支持を広げろ」と簡単には言えない

コロナ禍における維新の会の支持率上昇を見て、立憲民主党も地方の首長選で勝って、そこで実績を上げろという人が増えた。小沢一郎も民主党代表時代、知事選での相乗り(自民党と同じ候補を推す)を禁じた。これが正しかったことを、維新の会は示しているように見える。だが、忘れてはいけないことがある。橋下は有名人であり、初当選した時は与党であった自公両党の支持を得ている(自民党は大阪府連が推薦、公明党が大阪府本部が支持)。当選後の行動力はすごかったが、不利な立場の野党にとっての参考例とはしづらい

民主党が都道府県知事選等の相乗りをやめられなかったのは、各地で野党になることを恐れたからであろうが、これは無理もないことだ。自民党ですら、都道府県知事選で敗れると、勝利した野党系の知事に寄ることが少なくない。地方では、自民党は国政よりさらに優位にあることが多いから(それゆえのゆとりもあって、内部対立が起こり、複数の自民党系会派が分立することもあるが)、知事も自民党の支持を迷惑がることは少ない。こうして自民党は結局、県政与党の中心に収まるのだ。自民党より弱い民主党の場合は、そうはいかない。各地で野党になると、地方議会で議席を減らすことになりかねない。そうなれば、国政選挙にも悪影響が出る可能性がある。

しかし一方で、いくつかの、いや一つでも相乗りでない形で都道府県知事選を制して、かつ成果を上げれば、他の多くでこけたとしても、それが確かに他の地方、そして国政での評価につながることは十分あり得る。

だが、そこにも大きな壁がある。橋下府政の場合と違って、民主党系の知事は最初から少数与党である(少数与党ではなくても、かわったことをしないということを前提とする「連立与党」が多数派だというだけで、民主党系だけでは少数である)。挑戦はすべきだが、迷走、足踏み状態となり、批判を受けるリスクはかなり高い。そして注目されるだけのことが出来るとは限らない。

全国的に注目されるには、良い結果を出すだけではなく、話題性も必要で、劇場型にしないと難しい。だからこそ、維新には「敵」が必要なのである(維新の場合は、強い自民党・官僚・財界よりも、民主党系と地方公務員を第一の敵とする、より容易な方法があった)。その点、国政における総選挙による政権交代であれば、議会の過半数も民主党(の味方)となるから、障害は比較的小さい。国政はニュースになりやすく、与党になるだけで注目される。ただそれでも、自民党と結び付いている官僚が障壁となり得る。

民主党系だけではもちろん、左派野党全体ででも、地方議会で過半数を取るというのは、国政よりもさらに難しい。自民党が強い地方が多いというのはもちろん、定数が多い大選挙区(中心)であることが多いから、票割が難しいのだ(実際にはそれも必要ないほど、野党の候補が少ない場合が多いが)。大都市であり、国政選挙と傾向が似ていて、勝ちやすいと言える東京都議会でさえ、政権交代の直前の2009年の選挙においてすら、民主党は過半数には届いていない(当時民主党と組んでいた、社民党と国民新党は議席を得ておらず、組んでいなかった共産党を民主党と合わせても、なお過半数には届かない結果であった)。

非常に多くの地方議会は保守的だ。大阪維新の会は成功したが、それは大都市の大阪においてであった。しかも大阪維新の会は、自民党の離党者達が結成した地域政党であり、その誕生時、自民党は珍しく野党であり(つまり少しは弱り)、民主党政権も支持を落とし、第3極には最大のチャンス、という時であった。中央集権の日本で地方の主張を比較的通しやすかったのだ。橋下はタレント弁護士として以前から有名であった上に、繰り返すが自公両党という「万年与党」の支援で大阪府知事に当選し、まずは両党を府政の与党としている。そのような状況下で、自公に頼らなくてもなんとかやれる、チャンスが訪れたのだ(国政で政権交代が起こり、例えば大阪府の自民党も分裂しやすくなった)。このような好条件がそろわない中で民主党系の知事が誕生し、いくら努力をしたとしても、「野党」が過半数の地方議会ともめて、ひたすら迷走するだけだ。

もちろん大阪では民主党は強かったし、もっとできたはずだと言われても仕方がない。田中康夫長野県知事のように、議会を解散して戦った知事もいる(彼を参院選の候補者としたのは、そう考えると維新らしい―2013年東京都選挙区。次点で落選―)。このことからも、相乗りによって地方に選択肢を与えなかった野党を、良しとはできない。国政での政局や離合集散ばかりで、「急がば回れ」の、地方議員増加による足腰強化がおろそかになっていた点も、批判されるべきである。

共産党を除けば、国政における非自民最後の砦である民主党系も、地方議会の多くでは、事実上金魚のフンに甘んじている(「金魚のフン」について『政権交代論』「不健全な「閣外協力型」政治」参照。逆に大阪府の内側に限定すれば、維新は金魚のフンではない)。民主党が地方で経験を積み、実績を上げるのももちろん、できるならそれに越したことはない。民主党系、民主党寄りの首長、首長経験者、それで不十分なら場合によっては維新の会から、レクチャーを受けるのも良いと思う。

最後に一応確認しておくと、民主党系の都道府県知事も多少はいるが、あまり知られていない。上で述べたことも当然災いしているが、それでも中には評価されている知事もいる。それでも広く知られていないのは、維新のように目立つことばかり考えていないからだと、言うこともできるかも知れない。しかし反対に、まだまだ無難なことしかしていないと批判することもできるかも知れない。

こんな状況の日本では、野党第1党は地方議員を増やす努力は当然しつつも、残念ながら先に政権交代を実現させ、自民党中心の癒着・利益誘導政治にダメージを与えるしかない。政権交代後すぐに評判を落とした民主党には、それができなかった。それどころか分裂して、地方での力をさらに弱めた。

 

維新の会の最大の問題点→

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