日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
利益誘導政治による支持の拡大と安定

利益誘導政治による支持の拡大と安定

いくら圧倒的な強さを誇る政党であっても、有権者に否定され、選挙で負ければ野党に転落するのが民主主義である。完璧な人間はいない。その人間の集まりである政党が完璧なはずはないから、独裁でない限りどの与党第1党も、支持を失って野党になることが当然ある。しかし自民党は、腐敗を問題視されながら、38年間、その祖先をたどればもっと長く、政権の座にあり、自らの分裂によってはじめて野党に転落した。

それはなぜかと言えば、個々の議員の人気は別として、いやそれにも貢献していた利益誘導政治が成功していたからだ。圧倒的な勢力を、選挙区などに利益をもたらすことで、維持してきたということである。この傾向は、戦前の自由党系(立憲政友会)において、すでに見られる。与党であるがゆえに、規制、公共事業、その他さまざまな手段で選挙区等に利益をもたらし、それによって与党の地位を維持、その力でまた、選挙区等に利益をもたらし・・・ というサイクルに自民党は生まれ、生きている。これが壊れることは、党の死を意味する、という状況は、今も大きくは変わってはいない。選挙で選ばれる「プチ国家社会主義政権」といっても良いかも知れない。党の資金については、利害を共有する財界に助けられ、分配しるための国の資金が足りなくなっても、借金(各種国債の発行)をすることができる。

戦後、貴族院が普通選挙制の参議院となり、国会の力が戦前よりずっと強くなり、何より議院内閣制となって、永続するものとなった政党内閣を、永続的に担った自民党は、戦前の立憲政友会よりも利益誘導政治を、容易に進められるようになった。もちろん、利益誘導の規模は経済に左右されるわけで、経済の大きな成長に、自民党の利益誘導政治は支えられていた。互いに支え合っていたという面もある。また規制が多く、補助金や許認可などについて、政府の裁量の余地が大きいことも、与党政治家の影響力を強くしている(そうなるような制度にしている)。多くの利益団体が、これまた永続的に自民党を支持したのは、当然のことであった。また自民党は地方でも、首長、議会の多数派を抑え、これを利用し、それによって多数を維持するというサイクルを築いている。地方自治体では相乗りの首長が多く、野党第1党が弱いところが多いから、このサイクルは国政レベルのサイクルよりも、頑丈であるといえる(ただし、非自民党系の強力な都道府県知事が誕生するなどすれば、大きな変化を国政よりも容易に起こせるという面もある)。

国と地方の行政を握っていることで自民党は、宗教法人に有利な制度、自らの地位を不利なものとしたくない宗教団体の支持も、幅広く集めた。そこに、創価学会という最大規模の宗教法人が、公明党との連立によって事実上加わったのだから、宗教票における自民党の優位は、今も自明である(創価学会と結び付く自民党から、民主党へと、支持政党を代えた宗教団体も多くあった。しかし民主党政権の失敗と、民主党の大低迷を前に、その姿勢は揺らいでいる)。民主党政権の失敗は、郵政民営化で離れた全国郵便局長会の票も、自民党に戻した。元々保守的なこれらの団体に、民主党→民進党を支持するのは難しい。

一方で社会党→民主党→民進党は、政治における代表的かつ最大規模の利益団体の1つ、労働組合の連合組織の支持を得ている。しかし戦後間もなく50%を超えた組織率は20%を下回るまで下がってきており、被用者の多数派を支持層にしているとはいえず、組織票では自民党に遠く及ばない。被用者の多数派を味方にできなかった原因は、社会党の頑なさの他、経済成長により、その多くが自身の生活に満足するようになったからである。たとえ満足しているとまではいかない有権者にも、社会党→民主党という経験不足の政党に政権を任せることに、懸念を持つ人々が少なくなかった。そのような人々を責めることはもちろんできないが、状況が変化すれば彼らが犠牲になることもあるのだから、待っているだけでなく、自らの利害を代弁してくれる政党を育てることも必要であった。

使用者が自民党、被用者が社会党~民進党支持というのであれば、人口比率的にいって、特に企業等が多い都市部では、後者が有利になるべきである。他の先進国でも、都市部では左派政党が強いことが多い。しかし後述するが、上で述べたことがある上に、都市部では余裕の大きさ、多様化によって複数の政党に票が分かれ、社会党~民進党が、地方での劣勢を挽回するほどの議席を獲得することは、難しかった。2000年、2003年、2009年の総選挙において、民主党は、都市部で健闘した(各都道府県の県庁所在地がある第1区を多く制するため、「1区現象」と呼ばれる)。しかし、2009年の総選挙を除けば農村部等では振るわず、政権交代には遠い状況であった。

野党は政権から遠く、利益誘導は難しい。与党に吸い上げられない民意を見出しても、政権を担わずにそれを満たすことは難しく、だからといって消極的になってはならないのだが、自民党の幅が広いこともあり、例えば与党(自民党)内野党的な勢力に、手柄を横取りされるリスクもある。

今は無党派層が多く、組織票の時代ではなくなってきていると言っても、それは投票率が高い場合に限られる。だから上の状況は、日本の有権者が多く選挙に行くことでしか克服できない(しかし無党派層の多くは簡単に期待をし、簡単に失望する)。高齢者の方が選挙に行くから、若年層より優遇されるというのと同じで、投票率が恒常的に高くならなければ、組織票を固めるための政治が行われがちになるのである。

 

「なんでも約束」が許される自民党→

Translate »