日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
「なんでも約束」が許される自民党

「なんでも約束」が許される自民党

従来の自民党型ばらまき政治の継続を求める人々、国の歳出を抑える新自由主義的改革を求める人々、社会民主主義政党が本来得意とする、社会保障の充実を求める人々、自民党はこのすべてのタイプの人々から支持を得ることができる政党である。しかし予算が限られていることもあり、これらの政策は本来、矛盾することが多い。自民党型ばらまき政治(利益誘導型政治)だけを見ても、特に自民党のような大きな政党になれば、矛盾を抱えるものである。当たり前のことだが、全ての地方、業種の人々の利害が一致することはないからだ。

自民党は国と地方における長い与党経験の中で、その調整能力を高めてきた。「野党に相談しても仕方がない」という印象、あるいは状態は、そう簡単には変わらない。だがもう1つ、派閥連合体、社会(民主)主義でないほとんどの政党、無所属議員が集まってできたという自民党の性格も、矛盾を覆い隠し、さらには利益誘導政治を嫌う層にまで、支持を得ることを可能にしたと言える。

自民党には複数の、それ自体が政党かのような、組織化された強固な派閥があり、それらは五十五年体制下、激しい競争をしていた。利益誘導を含めた自らの政策を実現できない場合、例えばその理由が自らの派閥の力不足である場合も、支持者達を失望させるよりは、より熱心に応援することで、自民党の他の派閥(の候補者)に勝ち、利益を実現させようと思わせることができた。

複数の自民党候補が、全員が当選するよりも少し少ない枠(全員が当選し得る定数であっても、野党の有力候補が1人くらいはいることが多い)を争っていた中選挙区制は、それに適していた。というよりも、中選挙区制がそのような状況を生んだのだといえる。しかし小選挙区中心の制度になっても、似たようなことはあった。

1996年の総選挙において、亀井静香が党の方針と異なる、消費増税反対を唱えた。個人としては反対で、当選したら回避に動くのだという期待をさせて、あるいは抗議の声を吸収して、消費税増税賛成の有権者の票に加え(これはそもそも離れにくい)、野党に入れるべき(当時は第2党の新進党が反対していた)反対の有権者の票も、少なからず自民党は得られたわけである。

郵政民営化も同様である。最後は自民党が分裂したが、反対派の多い選挙区、あるいは反対派の組織票が強固な選挙区の候補は反対をし、そうでない選挙区の議員は賛成をした(必ずしもそうでないケースもあったが)。反対の有権者は、反対派の自民党候補が多く当選することで、自民党における郵政民営化の流れを止めようとする。そもそも、自民党が敗北すれば、郵政だけではなく、他の利益、利権までもが失われかねないということもあった。賛成の有権者は、賛成派の候補が多く当選することで、民営化が早期に確実に行われるようにしようとする。この争いは有権者を熱心にさせ、双方の当選を助けることになる。いくら主張が近くても、野党に入れれば、その候補が当選したとしても、国の政策の決定にほとんど影響を与えられない、「死票」になるのである。TPPについても同様だ。

最近の自民党には新自由主義的な面もあるわけだが、それは本来、商店も農家も自由競争でショッピングモール、海外の農業と戦えという考え方である(廃業した人々を救う政策はまだあり得ても、「つぶれるべきもの」を助けることには否定的である)。商店も農家もこれには不満を持ちつつも、従わざるを得ない状況となっている(あるいは、うまくごまかされている)。それは、上に見た理由だけではなく、1人しか当選者を出せない小選挙区で自民党を負かせることで、より大きな不利益を被ることを恐れなければならないからでもある。民進党は、2016年の参院選において、TPPへの参加に反対する農家の多い北海道、東北で圧勝したが、そのような支持を長期的なものに出来るかどうかは、特に東北地方では不透明だ。

社会党の場合にも、右派の議員は現実的な社会民主主義を求める有権者の、左派の議員は社会主義的、あるいは平和主義的な考えが強い有権者の支持を得るということがあったが、1つの選挙区で双方が当選するには、それぞれの有権者の数が少なすぎるというケースが多くなっていった。何より万年野党の社会党内の対立軸は、個々の政策よりも、日常生活からは離れた思想信条を巡るものであった。

 

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