日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
絶望に絶望が重なった参院選

絶望に絶望が重なった参院選

これを書いている2023年11月から2022年の参院選振り返ると、1年ほど前の事なのに、隔世の感すらある。というのはもちろん、参院選の頃には統一教会の問題が浮上しておらず、内閣支持率の水準も今よりずっと高かったからだ。正確には参院選の2日前、安倍元総理銃撃事件が起こり、その背景に統一教会の問題がある事が言われだしたところで選挙当日になった。しかし、期日前投票をすませていた人も一定数いたし、まだ状況が分からない中、それが選挙に影響を及ぼす事はなかった。

筆者はこの事件が起こる前から暗い気持ちだった。それはこの選挙によって、参議院が「死ぬ」と考えていたからだ。どういうことかと言うと、もともと、民主党政権が倒れた後の参院選は、自民党に極端に有利だった。数が増えてきている1人区(人口の比較的少ない県)は、もともと自民党に非常に有利であった。民主党が力をつけて、やっと自民党と渡り合える政党に成長していたのに、全てご破算になってしまった。定数の多い都市部、比例代表は各党が議席を分け合う。一つの野党が強くなる事は難しく(2016年の民進党にその傾向が見られたが、間もなく不振に陥り、希望の党騒動で大分裂)、投票率も低水準な中、勝ちの見えている自民党が比較的有利になっていた。結果自民党は、衆院選(総選挙)のような圧勝にはならなくても。過半数に迫る議席を単独で獲得し続ける事が容易であった。

それが2021年の総選挙で立憲民主党が不利な立場になった事、維新の会が支持率を大幅に挙げていた事で、余計に自民党が有利になったという事だ。以下の変化がない限り、状況はもう変わらない。

・左右の野党が協力する・・・協力して勝っても、その後も協力を続けられるのか?

・維新の会が立憲民主党を凌駕し、自民党からも全国的に大きく票を削れるような、強い野党第1党になる・・・維新の危うさは解消されるのか? 保守2大政党制で良いのか?

・右派野党が自民党と組み、左右の対立構図となる・・・左派野党が非自民票を集めやすくなるが、自民党側があまりに強く、対等になるのが非常に難しい。

 

このままでは参議院が自民党一色になってしまう。任期が事実上3年程度(満了で4年だが、いつ解散があるか分からない状態)の衆議院、かつ政局の中心となりやすい衆議院とは違い、長期的に、安定した立場で研究、審議、修正、採決ができる。それによって権力を監視し、正すべき参議院が、自民党政権の一機関のようになってしまうのなら、しかもそこから変化する可能性が極端に低くなるのなら、それは参議院の「死」と言えるだろう。そうなると予想していたのだ(かつて自民党内では、参議院の勢力に独自性があった。しかし党首に権力が集中しやすい制度、党首個人または衆議院議員であるごく一部の要人達が物事を決める傾向が強まる中では、参議院に破格の大物がいない限り、独自性の発揮は困難だ)。

 

2021年の総選挙は、自民党が直前に総裁選(党首選)をやって注目され、まだその新総裁=新総理大臣の実績を評価できない中での選挙であった。もちろんそうなったのは、優位政党自民党の、権力をフル活用した戦略であった(高市などは応援演説の際、天皇の承認が必要な副大臣が落選して選び直される事になると、忙しい天皇を煩わせる事になるという、天皇を政治利用する発言をした)。その中で立憲民主党は、良い勝負ができた。しかし勝ちきれなかった。それが、結果が極端に出る小選挙区では大敗につながった。

ただし、良い勝負ができたというのも小選挙区だけで、比例代表のほうは自民党が過去最高水準(郵政選挙を別として)に達し、立憲民主党は低水準(下野後の民主党系野党第1党の水準)に留まった。これは前述の通り自民党が有利な状況であった事(トップを菅義偉から岸田に交代させるまで、自民党は補選等で連敗していた)に加え、立憲民主党と共産党の、選挙と選挙後の協力が進む形になった事で(立憲は実はかなり慎重だったが、共産党はこれをアピールに使った)、保守票が離れたためだと考えられる。なお、自民党は立憲民主党に非常に脅威を感じており、その立憲との間の対立軸を潰すような総裁・総理を選んでいた。この事は、自民党との差別化が可能となった維新にとっては、非常に有利であった。

選挙での成績は支持率に直結する。自民党は立憲民主党に脅威を感じていたからこそ、必死に「立憲共産党」攻撃をしたのだが、選挙が終われば自民党は安泰。躍進した維新には、国民の多数派である保守が乗れる野党として勢いがつき、立憲民主党は一気に不利な立場となった。代表選を行った事で、総選挙で一応上がっていた支持率をある程度維持はできたものの、野党第1党の地位も危ういと言われるようになった(代表選は深刻な対立なしに行われ、良い雰囲気であった。しかしだからこそ、候補者間の差異に欠けた、魅力に乏しいイベントだと映った)。

この総選挙の後、ロシアによるウクライナ侵攻があった。有事にも頼れるというイメージ二欠けた岸田総理(外務大臣を長く務めていたが)は、物価高にも襲われた。本来なら内閣が危機に瀕してもおかしくはない(現に他の先進国等では、コロナ危機後、政権交代が相次いでいる)。

維新の会は、党内では最もベテランであった鈴木宗男が親ロシアの立場であった事、また、党を離れても維新とイコールに見られがちな橋下徹が、悪目立ちする発信をテレビやSNSで繰り返した事で、あるいは元々、選挙の時だけ支持率が上がる傾向があったことで(これはどの党にも見られるし、そうなると支持率はあてにならないともいえるのだが)、立憲民主党以下の支持率に落ちていた。

以上から、確かに2021年の総選挙直後よりはましな状況(あくまでも日本の政治にとって)ではあったのだが、それでも、立憲と維新が同等となって、共倒れになる可能性は、総選挙前と比べれば飛躍的に高くなっていた(維新が自民党をも大きく削るには、維新が自民党支持者にもう少し期待されていなければならない)。

しかも総選挙後のイメージの(さらなる)低下で、左派野党は共闘を組める状況にはなかった(正確に言えば、その中心となるべき、最も右に位置する立憲民主党が動けなくなった)。

しかもロシアの侵略行為は、国民の左派野党に対する不安(特に共産党の、国防に消極的だというイメージ)を多少なりとも大きくした(維新についても、保守系だという安心感こそあっても、それはイメージに過ぎなかった。上で触れた親ロシア的な発信だけでなく、外交、国防について、政権担当時の民主党よりもずっと人材に乏しいという問題があった)。

これでは終わりだ。比例代表はまだ野党が少しは健闘し得たが、だからこそ維新>立憲という逆転現象が起こりやすい。それに前年の総選挙では自民党の比例票が大幅に増えていたから、比例でも自民党の優位性が増す可能性があった。そして選挙区の方は、数が非常に多くなっている1人区で自民党がほぼ完勝し、複数区は各党が分け合う(複数区は都市型と言えば都市型だが、選挙区が都道府県単位である以上、全てが都市ではなく、自民党が有利な農村部も含む)。その中で、一部の1人区は立憲がやや優勢であったことから(これについては民主党系としての歴史の長さ、自民党出身者を含む多様な議員がいる事に助けられている)、選挙区は立憲>維新となり、トータルの議席数は自民党が圧勝、野党はドングリの背比べとなる。

これでは参議院でも、自民党が単独で過半数を超えてしまう。自民党が衆議院だけでなく参議院でも単独過半数となれば、自民党はさらに強くなる。正確に言えば、2019年参院選までの約3年間、自民党は単独で過半数をギリギリ上回っていた。しかしそれは総選挙後の入党によってもたらされたのであったし、他の状況(野党の1強2弱化、安倍内閣でなくても自民党は選挙に強いのか、注目されていた)と合わせれば、ここで改めて過半数の議席を得る事は、自民党の力を過度に強くする。筆者はそれを心配していた。と言うよりも、そうなるだろうと悲観していた。

そこに起こったのが、安倍元総理の銃撃事件であった。どんな理由があろうと政治家を殺害する事は許されない(もちろん殺人自体が許されない犯罪なのだが、政治的な意味で)。事件の背景はすぐには分からないものだし、これでは同情票、民主主義を守ろうとする票が、自民党に入る。期日前投票が増えているとはいえ、自民党がさらに有利になると考えた筆者は、失望した。

ここで、筆者が安倍総理の死去について感じた事を述べておきたい。まず衝撃、そして大きな失望感があった。筆者は立場上、どうしても安倍が好きになれなかったし、そうならざるを得ないような問題が安倍総理にはあったと考える。しかしその問題こそ、野田元総理の追悼演説ではないが、選挙で自民党に勝つ事、極端なことを言えば安倍を落選させる事で(本当はどの議員にも落選の可能性があるべきで、極端な話であってはいけないのだが)、解決したかった。そうあるべきだし、個人的にもすっきりする。

その倒すべき存在が亡くなる事は、大きな喪失感をもたらす。もう勝つができないのだから。それと筆者は人間が嫌いではないから、あれだけ目にしていた人物が亡くなる事は、しかも殺された事は、とても悲しかった。殺人・テロが起こった事については、特に事情が分かる前は、日本がいよいよ危ういと感じた(ただしこれと近い時期に政治家が嫌がらせを受ける事件はあったし、政治家の警備については、昔から「あの程度で良いのか」という疑問は持っていた)。

そして一番失望したのはやはり、これで自民党がさらに多くの議席を得る、参議院が本当に死んでしまうという事であった。

このような失望に失望が重なった状態で、筆者は参院選の開票を見守った。

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