日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
実業派の動き(⑤)~3税廃止案に対する賛否~

実業派の動き(⑤)~3税廃止案に対する賛否~

憲政本党、又新会、戊申倶楽部の議員達(中野ら)は、2月2日に3税廃止のための3法案を提出した。代わりの財源がないとして、立憲政友会と同じく反対することに決した大同倶楽部の一部にも、同調者がいた。そのような状況下、大同倶楽部は、塩専売について荒川五郎(広島県郡部選出・元帝国党)、浅羽靖(札幌区選出・元有志会)、川越進(宮崎県郡部選出・元会派自由党)、鈴木総兵衛(名古屋市選出・元甲辰倶楽部)を、織物消費税について浅羽と須藤嘉吉(群馬県郡部選出)を除外例として認め(1909年3月9日付読売新聞)、分裂を回避しようとした。3税廃止に関する3法案は、3月9日の採決において、否決となった。通行税の廃止案と織物消費税の廃止案については、第2読会開会の是非を問う記名投票の結果が残っている(衆議院事務局編『帝国議会衆議院議事速記録』二三365-367頁)。それによれば、憲政本党、又新会の議員達が賛成、立憲政友会、大同倶楽部の議員達の多くが反対をし、戊申倶楽部の議員達は賛否に分かれた。大同倶楽部で織物税の廃止案に賛成したのは浅羽、小野崎耕夫(岩手県郡部選出)、須藤(群馬県郡部選出)の3名であり、通行税の廃止案に賛成した議員はいなかった。浅羽は札幌区、他の2名は郡部の出身であり、3名とも中央倶楽部の結成にも参加するので、ここから特に言えることはない。戊申倶楽部を見ると、特に関係業者は廃止を求める運動を盛んにしており、より多くの賛成者が出た(※)。織物税の廃止案について、賛否に分けて氏名を記し、織物税で賛成、通行税で反対に投じている議員については×を付け(その逆はいない)、全議員の選挙区、所属会派の変遷を付記した。

※1909年3月7日付読売新聞によれば、戊申倶楽部は3月6日の協議の結果、3税廃止案に対する賛成、除外例を許すこと、3税を別々に廃止する場合、まず織物税を廃止することを決めている。

賛成・・・安東敏之  名古屋市 戊申倶楽部→中央倶楽部→無所属団→立憲同志会→憲政会

磯部安次   茨城郡 戊申倶楽部→中正倶楽部→立憲政友会

稲茂登三郎  東京市 戊申倶楽部→立憲政友会

岩下清周×  大阪市 戊申倶楽部→同志会→亦楽会→亦政会→中正会

江間俊一   東京市 立憲政友会→戊申倶楽部→中央倶楽部→立憲同志会→憲政会

加藤恒忠×  松山市 戊申倶楽部

木村省吾×  京都市 戊申倶楽部→中央倶楽部

小橋栄太郎  函館区 大同倶楽部→戊申倶楽部→中央倶楽部

清水市太郎  愛知郡 戊申倶楽部→中央倶楽部→立憲政友会

高橋政右衛門 滋賀郡 戊申倶楽部→立憲政友会

千早正次郎× 岐阜市 戊申倶楽部→中央倶楽部

富田幸次郎  高知郡 戊申倶楽部→立憲国民党→無所属団→立憲同志会→憲政会→新党倶楽部→立憲民政党→第一控室→立憲民政党

豊増龍次郎  佐賀市 戊申倶楽部→立憲国民党→立憲同志会→憲政会

中野武営   東京市 立憲改進党→進歩党→憲政会→憲政本党→戊申倶楽部

中村弥六×  長野郡 大成会→巴倶楽部→同盟倶楽部→公同倶楽部→立憲革新党→進歩党→憲政党→憲政本党→中立倶楽部→戊申倶楽部→中央倶楽部

中安信三郎× 京都市 戊申倶楽部→中央倶楽部→無所属団→立憲同志会

西村治兵衛  京都市 戊申倶楽部

牧野平五郎  富山市 中正倶楽部→戊申倶楽部→中央倶楽部

丸山孝一郎  米沢市 戊申倶楽部→中央倶楽部

村田虎次郎  大津市 戊申倶楽部→中央倶楽部→立憲政友会→政友倶楽部(2)→亦政会→中正会

森田俊左久× 広島郡 戊申倶楽部→中央倶楽部→無所属団→立憲政友会

八束可海×  静岡郡 戊申倶楽部→中央倶楽部

和田尊義   高知郡 戊申倶楽部→立憲国民党

反対・・・井上敏夫  四日市市 戊申倶楽部→立憲政友会

飯田精一   山口郡 戊申倶楽部→維新会→新政会

石田平吉   門司市 戊申倶楽部→中央倶楽部→立憲同志会→憲政会

加治壽衛吉  丸亀市 大同倶楽部→戊申倶楽部→中央倶楽部→立憲同志会→憲政会

片岡直温   三重郡 国民協会→山下倶楽部→戊申倶楽部→立憲国民党→無所属団→立憲同志会→憲政会→新党倶楽部→立憲民政党

木村艮    京都郡 戊申倶楽部→中央倶楽部→無所属団→立憲同志会

斎藤巳三郎  新潟市 戊申倶楽部→中央倶楽部→憲政会

鈴木久五郎  高崎市 戊申倶楽部→中央倶楽部

仙石貢    高知市 戊申倶楽部→立憲国民党→立憲同志会→憲政会

戸水寛人   金沢市 戊申倶楽部→立憲政友会→新政倶楽部

中村豊次郎  三重郡 戊申倶楽部→中央倶楽部

肥田景之   宮崎郡 中央交渉部→国民協会→戊申倶楽部→中央倶楽部→無所属団→無所属団→公友倶楽部→公正会→維新会→新政会

星一     福島郡 戊申倶楽部→立憲政友会→立憲政友会革新派→衆議院議員倶楽部→翼賛議員同盟→翼賛政治会→大日本政治会→日本進歩党→民主党

松尾寅三   下関市 立憲政友会→戊申倶楽部

米田穣    石川郡 戊申倶楽部→立憲政友会

織物税は賛成が23名(うち市部、区部選出15名)、反対が15名(うち市部、区部選出8名)であった。賛成派の方が、市部選出議員の比率が高いことが分かる。特に東京市、京都市、大阪市、名古屋市選出の計8名は全員が賛成している。通行税では賛成が15(うち市部、区部選出が10)、反対が23(うち市部、区部選出が13)と、賛否の総数が反対になるが、市部選出議員の割合は、やはり賛成派の方が高い。ただし大阪、京都両市選出議員の中では反対派が多くなる。実業派と官僚派から成る戊申倶楽部が、実業派を中心とする都市部の議員と、他の議員との間の溝が広がるリスクを抱えていた事は確かだろう。なお、所属会派の遍歴を見ても特別な傾向は見出せない。賛成者の半数が大同倶楽部と合流している(中央倶楽部に参加している)。つまり3税廃止に反対である山県-桂系の勢力になっている事には、違和感を覚えるのだが。

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