日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
第3極・実業派の動き(①⑤⑨)~日吉倶楽部の結成~

第3極・実業派の動き(①⑤⑨)~日吉倶楽部の結成~

日吉倶楽部には、山下倶楽部、つまり実業派中心の会派の残存勢力という面がある(前身の同志倶楽部結成時の10名中5名が山下倶楽部出身者)。日清戦争後、日本の財政規模が拡大すると、それに見合う歳入を確保するために、主な税収であった地租の増徴は、不可避なものとなった。しかし、第2次松方内閣も第3次伊藤内閣も、2大民党、つまり自由、進歩両党の反対により、これを実現させることができなかった。第3次伊藤内閣期、第3極における最大会派であった山下倶楽部の中心は、政党に属さない実業家の議員達であった。報道でもそのように認識されていた(例えば1898年5月9日付読売新聞)。彼らの少なくとも一部は、民党、そして民党に阻まれて薩長閥政府が十分にすくい上げてこなかった実業家の利益を代表して、地租増徴を支持した。実業家達には、地主層を地盤とする民党の影響力の犠牲になったという面、つまり地租以外の増税の犠牲者という面があった。また自らの利害のためにも、地租増徴による、歳入の増加と、外債募集等の環境整備に期待していた。日清戦争後、後述する通りすでに地租以外の増税が進んでいた中で、彼らは地租増徴の実現のためにも、民党を含めた他の会派、政党にもそれを望む議員達がいた、地価修正を支持した。日吉倶楽部には、その山下倶楽部の実業派の後継という性格があった(第5回総選挙後の憲政党の結成に加わった実業派の議員、無所属となった実業派の議員もいたから、あくまでも一部である―表⑥-A、『中小会派の議員一覧』参照―)。

 

表⑥-A:山下倶楽部所属議員と憲政党結成・第6回総選挙

・第12回帝国議会における衆議院の解散当日(1898年6月10日)までに山下倶楽部を脱した議員の氏名は、()付で記した。

・「以前の所属」は、2つ前までの所属会派を記した(1つの場合もあり、ない場合は「-」とした)。

・「第6回総選挙」に関しては『議会制度百年史』院内会派編衆議院の部から類推するのではなく、第6回総選挙の憲政党の獲得議席数がこれと同じであるものの、国民協会と無所属に1議席の違いがある憲政党の党報第2号に基づく。ここではまず氏名を記した議員の同選挙における当落を記した。◎は憲政党に入らず当選、○は憲政党に入り当選、×落選(党報第2号23~34頁、東京朝日新聞、読売新聞を用いて次点まで確認した結果)、?は次点にもなっておらず、出馬の意思がなかったか、薄かったと考えられる場合(当時は立候補制ではなかった)。◎、○、×の場合は総選挙時の所属(憲政党は「憲」、無所属は「無」)、うち×以外の場合は()内に第13回帝国議会開院時の所属を記し、×、?の場合は、「→」の後、当選者の総選挙時の所属、()内に第13回帝国議会開院時の所属を記した。()について、憲政党は「由」、憲政本党は「改」とした。第13回帝国議会開院後に移動する議員も一定数いたが、これについては表補-C参照。2人区の場合は、1名のみが連続当選しているか、または同じ政党の候補者が当選している場合、そして2名ともが同じ政党、会派に取って代わられた場合には、当選しなかった議員の分がどの政党、会派に奪われたのかを断定することができる。この表に関しては全て断定することが出来た。

・「以前の所属」の略称は次の通り(結成順に並べる):自由…自由党、巴倶…巴倶楽部、中交…中央交渉部、国民…国民協会、井角…井角組、革新…立憲革新党、独3…独立倶楽部(第3回総選挙後に結成されたもの)、大手…大手倶楽部、進歩…進歩党、議倶…議員倶楽部、実同…実業同志倶楽部、日曜…日曜会、国倶…国民倶楽部、新自…新自由党、公同…公同会

議員氏名 以前の所属 選挙区 第六回総選挙
木村誓太郎 実同、公同 三重2 ○憲(改)
佐々木正蔵 国倶、公同 福岡4 ○憲(改)※
田村順之助 新自、公同 栃木2 ○憲(由)
平岡浩太郎 議倶、公同 福岡1 ○憲(改)
山本隆太郎 日曜、公同 和歌3 ×無   →憲(改)
浅田貞次郎 進歩 兵庫9 ?    →憲(由)
東條喜惣治 進歩 千葉1 ?    →憲(由)
小野隆助 中交、国民 福岡2 ?    →憲(由)
雨森菊太郎   - 京都1 ◎無(同)
(伊藤啓一郎)   - 島根3 ×憲   →憲(無)
大塚幸兵衛   - 大分2 ?    →憲(改)
大三輪長兵衛   - 大阪1 ◎無(無)
奥村亀三郎   - 茨城4 ×無   →憲(改)
片岡直温 国民 大阪2 ×無   →憲(由)
川真田市太郎   - 徳島3 ×無   →憲(改)
川村淳   - 茨城6 ?    →憲(改)
岸小三郎 中立、独3 岐阜2 ?    →憲(日)
北田豊三郎   - 大阪8 ◎無(無)
(久米民之助)   - 群馬1 ◎無(無)
桑原政   - 茨城1 ×無   →憲(由)
小磯進   - 山形4 ?    →憲(由)
(合田福太郎)   - 愛媛4 ?    →憲(改)
佐々木宇右衛門   - 山形2 ×無   →憲(由)
斉藤信太郎   - 宮城2 ×無   →憲(改)
鈴木総兵衛   - 愛知1 ◎無(同)
(鈴木友治郎)   - 愛知8 ×憲   →国
高岡忠郷 立憲自由党 新潟3 ○憲(改)
高梨哲四郎   - 東京6 ○憲(改)
竹村藤兵衛 大手・実同 京都2 ?    →無(同)
谷沢龍蔵 革新・実同 滋賀1 ×無   →憲(改)
(時岡又左衛門) 自由 福井4 ?    →憲(由)
中辰之助   - 大阪9 ◎無(無)
長坂重孝   - 愛知7 ○憲(由)
並河理二郎 独3 島根2 ○憲(同)
西川宇吉郎   - 愛知6 ○憲(由)
西川重威   - 滋賀3 ×憲   →憲(改)
西野久右衛門   - 福井3 ×憲   →憲(改)
野坂茂三郎   - 鳥取3 ?    →憲(由)
野沢武之助   - 栃木1 ×憲   →憲(由)
萩原鐐太郎   - 群馬5 ?    →無(無)
板東勘五郎 実団、日曜 徳島2 ◎無(無)
深尾龍三   - 大阪6 ○憲(→除名)
福島勝太郎   - 静岡1 ×憲   →憲(改)
降旗元太郎   - 長野4 ○憲(改)
馬越恭平   - 岡山5 ?    →憲(改)
前川槙造 議倶、実同 大阪3 ◎無(同)
松尾寛三 革新、実同 佐賀2 ×憲   →憲(由)
右田古文   - 島根5 ×憲   →憲(由)
皆川四郎   - 長野7 ×無   →憲(由)
麦田宰三郎   - 広島9 ×憲   →憲(由)
村瀬庫次   - 愛知4 ◎無(同)
吉岡直一   - 大阪4 ○憲(無)
和波久十郎   - 三重3 ○憲(改)
(脇栄太郎) 巴倶 広島5 ×無   →憲(由)
(渡辺又三郎) 中交、井角 広島1 ?    →憲(改)

※:佐々木正蔵は福岡5区から選出され、同4区では憲(由)の野田卯太郎が当選した。

 

 

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