どうしたら良いか

筆者は小選挙区制に決して肯定的ではない。日本のように1党優位でなければ、小選挙区制も悪くないと思うが(どの制度にも長所と短所があるのだし)、日本では、優位政党である自民党を、その本来の力以上に強くしている制度であるからだ。それでは自民党以外の政党も育ちにくい。

しかし忘れてはいけないことが2つある。1つは、その小選挙区中心の制度において、民主党は圧勝し、政権交代を実現させたことだ。もう1つは、中選挙区制に戻しても、やはり自民党に有利な制度であるということだ(前述の通り。また『政権交代論』「疑似政権交代の背景にある自民党の多様性と中選挙区制」参照)。

自民党の河井案里(2019年参院選で初当選したが2021年に辞職し、さらにその当選も無効となった)の買収疑惑の背景にも、中選挙区制がある。河井の広島県選挙区は2人区だ(3年ごとに2人が選び直されるという意味で。定数が2以上であれば、大選挙区である―日本では都道府県内をさらに区切った大選挙区制を、中選挙区制と呼ぶようだ―)。

この2人区というのは、かつては今より多かったのだが、筆者は昔からずっと、最悪だと思っている。上述した、2名の名を書く連記制であれば話は別だが、単記制であれば、例外がないとは言わないが、自民党と第2党(野党第1党)が1人ずつ当選者を出し続ける、指定席になってしまう。何が起こっても選挙結果が極めて変わりにくい、予想できるということである(1995年の参院選では、参議院第2党の社会党が2人区で敗れたが、それは衆議院における第2党が、政党の再編により、社会党から新進党になっていたことの影響が大きい)。

それだけで、その選挙区の住人には不幸な事なのだが(それでも違う結果を出せるはずだというのは、間違ってはいないが、あまりに酷だと思う。そもそも他の政党が候補者を擁立してくれるとは限らない)、全国全てが2人区になったらどうなるか。今なら自民党が永久に第1党、立憲民主党が永久に第2党、ということになるだろう。

農村部では自民党は非常に強いので、いくつかの選挙区で2人の当選者を出す可能性が低くはない(是正が遅い1票の格差の問題―人口の多い都会の1票が、人口の少ない農村部の1票より軽くなってしまう―もある)。また、大阪では自民党と維新の会が1人ずつ当選者を出すだろう。これらのわずかな選挙区が勝敗を決め、自民がずっと第1党、立憲がずっと第2党、ということになるのだ。しかも自民と立憲は僅差であり続ける。それをストレスに感じても、2人区では、政治家も国民も変化を起こしにくい。第3党が育ちにくいからだ(自民党を離党しても、組むべき第3党以下は議席をほとんど持っていないし、展望を開きにくい)。

もちろんこれは仮定の話であり、現実としては2人区は減っているし、全国全てが2人区の単記制になることなど考えられない。だが、そのような選挙区がいくつかあるだけでも、不健全ではないだろうか。

中選挙区制に戻せば、2人区はだから論外だとして、多くの選挙区で、自民党同士の争いが起こる(それとも3人区として、自民、公明、立憲で分け合うのを基本とするか。しかしそれでは何も変わらないし、自民党も受け入れられないだろう)。自民党同士の戦いになれば、多くの場合、主要派閥が1人ずつ候補者を用意し、獲得議席の多さを争う。自民党候補の中で最下位になれば、さすがに落選する可能性が高い。例えば5人当選する選挙区であれば、自民党の5派閥が候補者を立てる可能性が低くない(理屈の上では全員の当選が可能)。しかし野党第1党も1人は立てるし(1人なら当選確実に近い)、他の政党も立てる。だから自民党の中で5位になる候補は、全体では、落選する6位以下になる可能性が高いのだ。

自民党同士が争う場合、他の自民党候補との差別化が必要になる。前述の通り、選挙区内を自民党が独自に区切って、候補者のすみ分けをさせたり、それぞれの候補に、異なる利益団体が味方することはある。しかし宗教票が大部分の公明党でもなければ、計算通りにはいかない。どうしても自民党同士がぶつかる面は残る。それに、「すみ分けをさせ」ると書いたが、それをするには党執行部のリーダーシップが必要になる。今それが比較的あるのは、政党助成金を分配する権限と、小選挙区の唯一の候補者を決める権限があるからだ。後者がなくなり、前者も絶対ではない中、中選挙区制で自民党執行部のリーダーシップが維持されるのか、難しいところだと思う。

同じ政党の他の候補者との差別化を迫られると、それぞれの候補が好き勝手に政策を掲げるような状況になる。その中には、選挙区等への利益誘導合戦も含まれる。今の制度が素晴らしいとは言わないが、安易に昔は良かったと言うべきではない。

ここで話を戻したい。今度の参議院広島選挙区の問題は、民進党系が分裂と、それによる対立感情から弱っていて、自民党が2議席を獲得してもおかしくはない、少なくとも、2人立てても共倒れはせず、1人は確実に当選するという状況になったことで生まれた。と言うと大げさだが、自民党はこれまで広島県選挙区で2人を擁立したことがほとんどない。今回のことは、自民党内の勢力争いが背景にあるのは間違いない。しかし民主党系が弱ったことで、2人目を立てる口実ができたのである。具体的に言えば、岸田派の候補(現職)の他に、もう1人立てて、2人の当選を目指そうと言えるようになる要因を、民主党系がつくったということである。その2人目の候補が河井であった。

真相はまだ細かく分からなくても、当時の安倍総理、菅官房長官、二階幹事長の少なくとも誰かが、自らの影響下にある河井を当選させようとしたことは間違いないだろう(河井は二階派であり、離党後も特別会員であったようだ)。これを、「古き良き自民党に戻ってきている」と言えるだろうか。

では、選挙制度を変えれば良いのか。変えれば良くなるというような、単純な話では当然ない。しかし変えれば変化は起こるはずだし、変えて見るのも良いだろう、色々と工夫もできる。

衆議員を完全に小選挙区のみ、参議院を比例のみにして、衆参の性格が異なるようにするという方法もある。あるいはどちらかを廃止して、完全な小選挙区制、完全な比例代表制にすることもできる。衆参どちらも同じような制度にして(今もそれに近い)、他の方法で違いが生じるようにするということもあり得る。様々な、多くの制度が検討対象となる。仮に小選挙区制か比例代表制に絞るとしても、その弊害を多少なりとも改める方法がある。