日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
大阪・兵庫以外で想像以上に弱かった維新

大阪・兵庫以外で想像以上に弱かった維新

改めて2022年参院選の結果を示す。

自由民主党 選挙区 比例区 計  非改選 合計議席(同選挙前)

自由民主党  45 18  63  56 119(111)

公明党     7  6  13  14  23( 28)

立憲民主党  10  7  17  22  39( 45)

日本維新の会  4  8  12   9  21( 15)

国民民主党   2  3   5   5  10( 12)

日本共産党   1  3   4   7  11( 13)

れいわ新選組  1  2   3   2   5(  2)

社会民主党   0  1   1   0   1(  1)

NHK党    0  1   1   1   2(  1)

無所属     5  0   5   7  12( 15)

合計     75 50 125 123 248(243)

2022年の参院選において、自民党大勝、立憲民主党不振と同じくらい、いやそれ以上に重要なのが日本維新の会の比例第2位(今回の選挙の比例代表における獲得票数・獲得議席が立憲民主党を上回った)と、同党の全体的な不振である。

これを自民大勝・立憲不振以上に重要だと捉えるのは、一つの選挙の結果(人気が6年もあるのでとても重くはあるのだが)を超えて、自民対立憲の構図が続くのか、あるいは自民対維新になるのかという、大きな枠組みに関する変化の有無に、直結するからだ。もちろん第3極の在り様にも。

結果から言うと、そのような変化が起こるかどうかは、完全に保留となった。強いて言うなら、自民対立憲の構図に留まる可能性の方が少しだけ高い状況となったのだと言える。

維新は確かに比例で立憲を上回った。しかしそれはたった1議席、得票率約2%レベルである。立憲には連合の旧総評系等が付いているのだから、維新にはハンデがあるというような話は今は関係ない。あくまでも今後の構図について考えている(維新にとってはもはや大阪府が支持団体のようなものだ。あえて「日本」、「大阪」と付けずに主語を「維新」としているが、同党が最も重視しているのは大阪における政策の実施、何より万博、IR―カジノ等―による大阪の発展、反映である)。

維新は比例で立憲を上回った。それがたとえ僅差であろうと、このインパクトは本来は大きなものだ。例えば1995年の参院選で、新進党の比例獲得議席が自民党を3議席上回った時には、激震が走った。新進党は内部対立や野党でいる事に耐えられなかった保守系議員、与党に復帰した自民党の敵である事に耐えられなかった公明党系の動き、民主党との総選挙における共倒れ等で崩壊した。しかし1995年には、政権交代(再度の自民党下野)が起こり得るという空気になった。

注意しなければいけないのは、この時、新進党が選挙区でも多くの議席を得た事だ。1人区は自民党が優勢であったが、新進党も壊滅状態ではなく、何より当時は、今より1人区が少なく、2人区が非常に多かった。新進党は複数区では基本的に議席を獲得し、それはつまり2人区で、それまで第2党であった社会党が指定席のようになっていた議席を失うという事であった。

新進党が参院選で第2党を蹴散らし、さらには第1党に迫ったという事には、新進党がすでに衆議院では第2党であったとは言え、大きなインパクトがあった。それと比べて2022年の維新の会はどうだろうか。1人区は全滅(そもそも候補者の擁立も限られていた)、複数区も大阪(4人区)と兵庫(3人区)、それに元神奈川県知事を恥ずべき形(後述)で擁立した神奈川(4人区)を除いて、全滅という状況であった(4人区の愛知県、埼玉県、3人区の千葉、福岡で次点)。そして合計の獲得議席で維新は、公明党にも届かない、第4位に過ぎなかった。

大阪において、盤石に見える票割で2議席を獲得し続けているのはすごい事だが、兵庫の当選者については、選挙区こそ違うものの(岡山県選挙区)、自民党やたちあがれ日本のベテラン議員、閣僚経験者であった片山虎之助の息子だ(兵庫県では2021年の総選挙でも民主党で議員経験のある1名を当選させたに過ぎない)。ともかく近畿地方、いや大阪府以外ではまだまだ弱い政党であった事が明らかになったのだ(ただし兵庫県では確かにある程度強くなっているし、近畿地方では比例票で立憲を大きく上回っている。翌年に知事選を制した奈良県では、1人区ではあるが、参院選前に安倍元総理殺害の現場にならなければ、参院選で維新が議席を得る可能性が、少しはあった)。

これだけ敗けると、さすがに比例区でのインパクトも帳消しになる。上述の通り新進党は崩壊したし、かつての民主党も2003年の総選挙の比例区で自民党を上回りながら、次の郵政選挙では敗北した。かつての維新の会も2012年の総選挙の比例区で民主党を上回りながら、翌年の参院選では下回った(背景には橋下代表の慰安婦に関する発言など)。比例だけでの勝利は、直ちに流れを変えるわけではないのである。比例区で少し結果を出しただけの維新はまだ、ちょっとブームになった小型性等~註型政党に過ぎない(大阪府での安定を評価すれば中型政党とし得るが、近畿以外では中型とは言い難い面がる)。これは参院選後、維新が立憲に接近するという意外な展開へとつながる。

なお、かつての維新の会の不振の背景には、みんなの党も存在していた事、何より第2次安倍内閣(自公政権)で株価が上がり、経済が上向くという期待が高まった事がある。しかし今でも維新には国民民主党と競合する面があるし(両党の違いは本来小さくないが)、自民党政権がうまくいっている場合には支持を得られないというのは、自民党の代わりにはなっても、政権の選択肢としては実は魅力がないという事である(日本人は保守2大政党制を理想視するところもあるが、第1、2党に一定の違いがなければ本当は選択肢にならない。改革をやりたい、やりたくないという熱意の程度の違いでは、選択肢にならないのだ)。

ここで、神奈川県選挙区に関して述べたい。維新は大阪府から遠く東の神奈川県で、2位当選という結果を出す事ができた。それを都市部での比例票の大幅な増加と合わせて見ると、改革派として維新が、関東でも浸透できそうに感じられる。しかし東京都では後述するようにひどい結果であったし、事はそう簡単ではない。

神奈川での2位当選は、候補者が元神奈川県知事の松沢成文だからである(そう考えると2位でも低いかも知れない)。松沢は新自由主義的である点で維新に近いが、かつての渡辺喜美、鈴木宗男、下地幹郎と同様に、維新においては、その所属でありながらのような面がある。鈴木と下地は維新の性格と最も遠いはずの、利益誘導タイプの政治家である(実際に、小泉自民党と対立する保守系の新党に属していた)。そうでない渡辺も、結局維新の上層部とうまくいかなかった。どちらが悪いかという事は置いておいて、小池の希望の党の結成前後、渡辺が人気のある小池に接近した事が直接的な原因だ。そう、たとえ保守系改革派、新自由主義という共通点があっても、いやあるからこそ、維新と「客人」はうまくいかないのである。それは日本の保守が、本来の保守の要素である【自助→共助→公助】という考えに乏しく、利益誘導型であった事に起因する(利益誘導も上からの恩寵という点で、本来の保守の要素とつながるが、絶対王政と違って選挙が絡むために、癒着という性格がより強くなる)。

保守が利益誘導一色である事には、当然ながら弊害も国民の(一部の)不満もあり、そこに保守系改革派の、スター政治家が登場する。それが小泉純一郎、渡辺喜美、橋下徹らだ。維新には保守系改革派の、スター政党というイメージが最近まであった(まだその幻想を持っている人も少なくない)。そして当然、スター同士はうまくいかない。正確には、互いに一定の距離があるうちは、向いている方向が同じだし、うまくいく。しかし距離を縮めた途端、どちらが上なのか、主導するのかという点でうまくいかないか、それが表面上は上手くいっても、下に立った方、主導しない方が、勝手な行動をとるのだ。

松沢もそうだった。横浜市長選に独断で立候補を決めたのである(日本の地方の首長選では、現職が出馬する場合、どうしても現職が当選しやすい。つまり松沢は勝てるなら出馬するという考えを持っていたと推測される)。しかし維新は松沢の行動を認めず、松沢は維新の議員となってからわずか2年で離党した。そしてこの横浜市長選で松沢は、驚くべき事に、横浜へのカジノ誘致に反対する立場を採ったのだ。それどころではなく、カジノ禁止条例をつくることまで唱えたのだ。

カジノ反対の理由は、市が賛否に分断されている事であったが、同じような事を理由に、維新が大阪でカジノ誘致を断念するとは考えられない。大阪と横浜では事情が違うとも言えるが、横浜が東京ほどに財政に余裕があるという事は全くない(ましてやコロナ禍を経ては)。大阪維新の会ならまだしも、日本維新の会は、カジノなどで地域の経済を活性化させる考えを持っている。よほど明確に失敗が見えていない限り、カジノに反対する政党ではないはずだ。

従って松沢は、当選するために主張を簡単に翻す人物であるか、あるいは大阪のカジノ成功に有利になるよう、横浜に送り込まれたスパイであったのか、そのどちらかしか考えられない。さすがに後者の可能性は低く、前者なのだと筆者は思う。

なお、維新が松沢を公認も推薦もしなかった原因は、松沢の側だけにあるのではない。維新は神奈川県知事選でも、公認どころか推薦も出していない。現職に小池東京都知事のような圧倒的な知名度があるわけでもなく(黒岩神奈川県知事もキャスター出身ではあるが)、しかし改革派が支持を得やすい都市をいくつも抱えている神奈川県は、維新が勝負すべき場所である。実際に維新は、地方議会には積極的に候補を擁立し、一定の結果を出している。それでも神奈川県知事選、県庁所在地の横浜市長選に関わらないのは、維新が自民党の神奈川県・横浜市の大物国会議員、菅義偉に近い事があると考えられる。菅が支持する候補の邪魔は出来ないが、相乗り批判も避けたいといったところなのだろう。そんな事情であきらめるのは、維新もまた、信念よりも党勢拡大であるという印のようなものだと思う(たとえ菅が新自由主義的だったとしても)。それにしても神奈川県については、黒岩が、不倫相手と思われる女性への下品なメールが流出する中で再選されるという、2022年の統一地方選挙も嫌な記憶である(筆者は神奈川県民だ)。

松沢に話を戻したい。彼は市長選に落ちると翌2022年、自分の議員辞職の穴を無めるために4人区+1(この1が補選の分であり、任期は松沢の分の残りの3年となる)となった参議院神奈川県選挙区に、維新の公認として立候補したのである。これを恥ずべき擁立と言わず、なんと言おうか。

松沢はもともと小沢一郎の新生党の出身だ。民主党時代には、右派系の若手として左派系の菅直人に代表選で挑戦した。そして敗れた後、もう1期衆議院議員を務め、神奈川県知事に当選した。首都圏、都市圏で野党系の経歴、改革派のイメージが有利に働いて、当選し、2期務めた。問題はその後である。東京都知事選への出馬を決めたものの、現職の石原知事が考えを変えてもう1期務める意思を固めると、不出馬に転じたのである。神奈川県知事の地位を失い、東京都知事の地位も得られなかった(2012年には出馬して副知事であった猪瀬直樹に敗北)松沢は、今度は2013の参院選に、みんなの党から当選、みんなの党の解党後に次世代の党に入った。しかし入党からわずか1年足らずで、代表選への出馬を取りやめて離党した(理由は党の刷新、自民党への接近について党内が一致していない事。松沢はは党の刷新、第3極を志向)。その後希望の党に入り、希望の党が早々に傾くと、さすがに旧民主党側にはいかなかったが(希望の党は、旧民主党系の国民党と、少数派の希望の党に分裂、前者は民進党残部と合流して国民民主党に)、いつの間にか維新の会に入党して参院議員に再選されていた。その後については上で述べた事につながる。筆者は軽い政治家だと思うが、どうだろうか。神奈川県知事としての成果がないとは言わないが、落選させてはいけないほどの政治家だとは全く思わない。

維新の本流ではない松沢に関する事を長々と書いてしまったが、松沢の姿勢、歩みは維新を象徴しているようにも感じる。

維新の一面を示すものとして、東京選挙区、比例候補の問題があった。同じ2022年の参院選の、比例候補として担ぎ出した猪瀬(都知事選で松沢氏を破ったものの、収賄を疑われた、徳洲会グループからの借入金問題で辞職した猪瀬直樹)が、東京選挙区の女性候補の胸に、応援演説の際に触れたのである。候補者を紹介する時に触れたことから、セクハラではないという見方もある。しかし映像を見れば偶然触れたというレベルではない。それを問題視しなかった女性候補を責めるのは酷だが、維新の執行部が特に問題視しなかったのは論外だ(維新の人権感覚を考えれば不思議な事ではないが)。これも人権感覚に乏しく、不祥事が非常に多い、維新を象徴しているように感じられる(猪瀬と同じく比例で初当選した歌歌手の中条きよしも、委員会質問において自身の新曲を宣伝して問題となった)。

この東京都選挙区の結果は、『五体不満足』の乙武洋匡、小池知事の寵愛を受けていると言われる都民ファーストの荒木千陽が立候補した事もあり、落選した(乙武、荒木も落選)。しかし比例で2位となった東京都の維新の候補が7位というのはひどい成績だ。

問題のある候補ではなかったが、京都府選挙区についても記しておきたい。京都府は2人区で、自民党候補と立憲の福山哲郎が有利であったが、そこで、京都において政党支持率で京立憲を大きく超えるようになっていた、維新が候補者を擁立した。京都で強い共産党も、候補を擁立した(2019年には自民と共産が議席を得て、立憲の候補は落選している)。しかも民主党系の大物で、京都に強い地盤を持っていた国民民主党の前原代表代行が、維新の候補に乗り、同党が推薦を出したのだ(これについてもゴタゴタがあったが、すでに述べた―『新・政権交代論』「予想通り自民党にぶら下がった、政策軽視の国民民主」参照―)。しかしここでも維新は議席を得られなかった。

京都は大阪に対抗心も持っているとは言え、大阪の隣に位置し、京都党という維新に近い地域政党もあり(両党は参院選の翌月に京都市議会で統一会派を結成)、何より放漫財政も要因とする財政難で、つまり新自由主義的な改革についての需要があり、おそらくそのために維新の得票が高くなっていた(大阪のテレビ局がカバーする近畿地方では、維新に関する報道、好意的な取り上げが多い事から、そもそも支持が高くなりやすくなっている)。そんな京都でも、維新は議席を取れなかった。大物議員とは言え、共産党の票を当てにできない立憲候補に負けた(共産党の支持者が一部、共産党候補の落選を見込んで、維新の候補の当選を阻止するために、福山に投票するという事はあったかもしれないが)。これでは維新が近畿地方全体に広がっているという印象は、なかなか持ちにくい。

以上、維新は非常に厳しい状況に置かれた。比例票頼りという事は、常に人気を意識していないといけない。維新が得意な分野ではあるが、それは背伸びを続けるという事でもある。同時にこの、野党第1党決定戦が引き延ばされる(長期化する)事は、チャンピオンである自民党には非常に有利な事である。本格的な挑戦者との試合が、先送りされるのであるから当然だ。

筆者は2021年総選挙の結果、1強2弱の傾向が強まった事で、参議員がますます自民党優位になり、同院の本来の役割を考えれば、事実上「死んでしまう」事を心配した。状況は統一教会問題で、そしてもしかすると安倍という重しが無くなった事で変わっていく。しかしこの時には、そうなるような結果が出たのだと言える(確かに自民党単独では過半数に約5届かない状況であったが、今回の結果を次も出せれば単独過半数になる。それでもかつての自民党の議席より少し少ないが、6年間維持される議席である事、様々な状況を合わせて考えると、そのような深刻な結果であったと言わざるを得ない)。

筆者は維新が伸びる事を望んでいない。しかし本人達は、衆議員の総選挙で野党第1党になる事を現実的な目標としている。つまり自民党の挑戦者に、遅くとも2025年までにはなるつもりなのだ。それなのに、2028年までの参議院の半数を選ぶ選挙で、この結果は無責任だと思う。そこに安倍元総理殺害の影響があったとしてもだ。それとも維新は、結局は自民党と組むつもりなのか、あるいは自分達が野党第1党にさえなれば、他党から議員が集まってくると考えているのかもしれない。しかしそれも、責任のある考えとは言えないだろう。そのような考えで立憲と足の引っ張り合いをするなら、野党全体が支持を失ったり、国民の無力感が増すだけに終わるのではないだろうか。さらに同じような無責任な新党が、野党第1党争いに絡んでくるかも知れない。

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