日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
議席数を全て比例で決める場合

議席数を全て比例で決める場合

各党の議席数が全て比例代表制で決まる制度にすると、自民党ですら、よほどのことがない限り、過半数を一定程度下回る状況になる。そうなれば、連立内閣が常態化する。自民党が第1党である場合は、自民中心の内閣になる可能性が高いし、本当はそうあるべきだと考える(ただし強すぎる自民党を弱めるために、自民党が第1党であっても、非自民連立政権ができるということが、例外的にだが、あるべきだと筆者は考えている)。

今ももちろん、連立内閣は常態化していると言えるが、性格が変わるのだ。

確かに自民党は、公明党(というより創価学会)に依存している。しかし公明党は1人しか閣僚を出していない(これは民主党政権の場合も同じであった。民主党政権は、正確には民主党、社民党―鳩山内閣まで―、国民新党の連立であった)。これには公明党の意図もあると記憶しているが、全議席が比例で決まれば、自民党と公明党の議席数は近づく。今よりは対等な連立に近くなるのだ。今は自民党中心という面があまりに大きく、公明党は外から、それを修正するという形に近い。

さらには、自公2党でも過半数に届かなくなる可能性が十分にある。そうなれば他の政党を入れることになるが、今よりは対等に近い連立になるし、与党間の対立が良い意味で増える。変化が起こりやすくなるはずだ。

今の制度では、自民党側は過半数割れした場合、他の政党をくっつけて、しかし自民党の在り方は変えず、乗り切ることができる場合が多い(現にそうなっている)。しかし比例代表制であれば、野党第1党の議席は大きく増える。必ずしも良いことだとは言えないが、自民党陣営の政党が少し寝返っただけで、政権交代につながり得るし、「次の総選挙で第1党が代わるかも」という盛り上がりも生じやすい。

上で述べた、比例代表制の欠点についてはどうか。まず次の事を確認しておきたい。

・小選挙区制は勝敗がはっきりし、単独政権になりやすいが、単独政権が難しい場合でも、事前に組む相手を決める事が多い(選挙協力をすることが有効であるため)。よって総選挙の前に、最低限、どの党とどの党が組むかは分かる場合が多い。

・比例代表制は勝敗がはっきりつかず、第1党となった政党も、過半数に届かない場合が非常に多い。選挙協力の意味が基本的にはないこと、第1党となった政党が、総選挙の結果、過半数にあと何議席必要かを見て、連立相手を探すことから、総選挙の前に、どの党とどの党が組むか、分からない場合が多い(近い政党は分かっても、それらの合計が過半数に届かなければ、別の組み合わせか、あるいはさらなる連立相手を探すことになる)。第2党以下となった政党が、むやみに総理の座を狙うと、混乱が生じる恐れがあるため、第1党が総理を出すことが、やがて慣例になるかも知れない(例えば、明確に連携している2つの政党が、合計では第1党を上回る結果となった場合には、その2党を中心とした連立が模索されることもあり得るし、それを慣例が許さないということもあり得る)。

 

確かに、小選挙区制の方が単独政権になりやすいし、連立であっても、事前に組み合わせが分かることが多い。この点については、より民主的だと言える。

一方で、中小の政党や無所属の立候補者が減り、2大政党しか選択肢がないことも少なくない。そこまでいかなくても、当選者を容易に予想できたり、せいぜい第2党までしか当選の可能性がない、ということが多々ある。それはそれで民主的だと言えるのだろうかと、特に多様化が進む現在では、疑問ではある(民主的な制度、明確な弾圧がない中で、選挙が行われさえすれば、それで絶対に民主的で公正だと信じる人もいるようだが、筆者はそうではない)。

日本の場合、自公も立国共も過半数を下回れば、第3極の引き込みが始まる。なお、共産党は今の在り方では閣外協力が関の山だし(現状では、そうあるべきだと筆者も考える)、反共的で、なにより立憲民主党に反感を抱いているであろう国民民主党が、第3極に移動することも、考えられなくはない。

第3極の取り合いが始まった場合、維新の会は自公を選ぶと想像される。本当は野党として、他の野党を後ろから撃って欲しいというのが自民党の希望だろうが、そうもしていられなくなる。このように維新の会に、本当の意味での姿勢の明確化を迫るという点でも、比例代表制は良いと思う。

では、立憲民主党が第1党になった場合はどうか。維新はそれでも自民に付けるだろうか。第1党となった立憲を排除した、「非立憲内閣」があり得るだろうか(そんなものは2つの意味で非立憲内閣だと言いたくなるが、自民党が第1党の地位を守ったとしても、他の政党が合意して組めば、非自民連立をありだと考える筆者にとっては、難しい)。

もし維新の会が立憲1位の選挙結果を受け入れ、立憲と連立を組むと、今度は維新と共産党の与党間対立が問題になる。どちらか、あるいは両方が閣外協力、あるいは中立になっても、政権に対する影響力をについて、競争し、立憲に判断を迫るだろう。

結論を言えば、こういった問題はあるが、比例代表で各党の議席数を決めるのは、今の制度よりは、1党優位などの、現状の問題点を改めやすい方法であろう。すぐに良くはならなくても、競争が本格化することによる、間接的な効果が期待できる(ここでは触れなかったが、無所属で立候補することができないという問題もある。これについては団体を結成して選挙に臨むことを、金銭面を含めて、しやすくする工夫をすれば良いと思う)。

比例代表制の国では、総選挙後何カ月も政権の枠組みが決まらないということが十分あり得る。ドイツでは、本当は組みたくないはずの、左右の2大政党が、長期に渡って組まざるを得なくなっている(他の政党が極端に左右に寄っていたり、小さいからこそ、譲歩することに慎重であるため)。

なお、ドイツの下院は日本と同じ、小選挙区と比例区の2票制だが、全議席がまずは比例代表の得票で決まり、実際の顔ぶれは、半数が小選挙区の当選者、残りが比例名簿の当選者となる(比例名簿には各候補の順位が付されている。比例以上に小選挙区での獲得議席が多い政党がある場合、その多い分も当選となり、その分だけ下院全体の議席が増やされる)。小選挙区が存在する意味が小さいようにも見えるが、比較的狭い、つまり身近な選挙区で、人物を選べることの意義は、小さくはないだろう。

そのドイツなどのように、一定の得票率を議席獲得の条件とする(その水準に届かなかった政党は、議席を得られない)としても、今の日本の制度よりは、気軽に政党の分裂が起こることになる。それがまた多数派形成を困難にするという問題もある。

期間等を限定して比例代表制にするということも考えたが、その制度で当選した議員達であれば、その期限を延長するだろう。それに選挙制度の変更については、常に党利党略を警戒する必要があり、大幅な変更を頻繁に行うことは危険でもある。

 

小選挙区のみにした場合→

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