1.政権交代論

世界の1党優位

日本の1党優位の状況が異常だと言えば、当然、「他にそのような国はないのか?」ということになる。答えを先に言えば、多くの国々を調べたが、筆者が知る限り、一つの例外を除いて存在しない。

その例外は南アフリカだ。黒人差別が制度化された国家において、その撤廃を求めて長く運動をし、武力闘争もしていた政党が、その実現後、1894年から2020年現在までずっと第1党であり、政権を握っている。差別がもたらした大きな傷が残る国家において、差別を肯定していた白人の勢力は崩壊しても、強い野党が育つにはまだ時間がかかる。かなり特殊な例だ。

これが日本以外の唯一の例だと言える(とは言っても、優位であるのはまだ26年、これから見るように、現時点では日本の自民党には到底及ばない)。戦後独裁政治の期間が長かった韓国だって、問題はあるし、大統領制であるがゆえかも知れないが、政権交代が定着している。

これから見るように、1つの政党がずっと第1党である例は、他にわずかに存在する。しかしそれでも過半数には届かず、時に他の政党による連立政権が誕生するのなら、1党優位とは言えない。複数の政党が一つのブロックのようなものを形成し、それが優位にある政党と対等な力を持って安定的に存属する場合、1党優位とは言えないと、筆者は考える。

もちろんこれだけでは話にならないから、かつて1党優位だった国、政権交代はあっても1つの政党が長く第1党である(あった)国を挙げていきたい。

その前提として、独裁の国はもちろん対象外だが、独裁国家とまでは言えなくても、つまり制度上政権交代の可能性があるとしても、野党が与党と同じような活動を許されていないような、つまり独裁の気があるような国は除く。例えばロシアだ。ロシアは独裁国家ではないが、言論の自由がかなり制限されており、それはインターネットにも及んできている。殺害がもはやめずらしくなく、ジャーナリストが政権を批判するのは命がけである。日本人の多くが好感を持っているように感じられるシンガポールでも、報道の自由が制限されている。

完全な独裁ではあまりに風当たりが強いため、このような国は世界に多く存在する。優位政党が存在し、超長期政権を築いてはいても(ロシアの場合は「民主政」の歴史が浅いので、期間はそこまで長くはないが)、批判を強引に抑え込んでのことであるから、1党優位になるのはあたり前である。自由な言論、選挙がある中での1党優位とは異なる(サルトーリは政党間の競合があるかないかで、1党優位政党制をヘゲモニー政党制、1党制と分けている)。しかし日本も、対等な力を持つ政党同士が競争している国よりは、そのようになる可能性が高いと考え、警戒すべきである。

ロシアもシンガポールも、かつて非常に厳しい状況にあった。筆者は他国のことを、事情も考慮せずに、自分の基準で評価しようとは思わない。ただ日本については、今後のためにも、民主主義国としての基本、実を確かなものにするべきだと考える。

なお、メキシコは政治的自由のない国から、ある国へと変化した。独裁政党であった制度的革命党(メキシコ革命を起こした諸勢力が結成)を、党内左派で、大統領経験者の息子であり、大統領候補の指名争いに敗れた人物が離党、左派勢力を糾合して民主革命党を結成、優位政党の挑戦者となった。その前に、制度的革命党の左傾化に対する不満から誕生した国民行動党の挑戦を受けていた。この3つの党が、約70年の1党支配を経て政権交代、第1党の交代が起こるようになったメキシコの、主要政党である(ただし民主革命党は、その離党者による国民再生運動に取って代わられた)。優位政党の変化、分裂によって、政党間の競争を、それを求めることも含めて起こすための、優位政党のライバルが誕生したのである。優位政党の右、優位政党の分派でなければ、そのような力を持つことはなかったであろう。

さて、あくまでも野党に自由な活動が認められている国について見るべきだから(野党に自由がない国に、日本をしたいという人は少ないだろう)、そのような国々について見ていく。今、そのような国はないから、過去の例、あるいは日本ほどでは全くないが、1党優位に近いともいえる例をみることになる。北欧では社会民主主義政党が強い傾向があるが、それが最も明確な、スウェーデンのみを挙げる。また、比較しやすいように、まず日本のケースを示す。

 

・日本の自由民主党(自民党)

1955年~2009年、2012年~2020年現在まで自民党が第1党

自民党は結成されてから約65年だが、うち約62年間は第1党。議会ができてから自民党ができるまでの約65年間は、いくつかの例外を除き、自民党結成の中心となった、自由党系の政党と改進党系の政党が2大政党であった。

 

1855年~1993年、1994年~2009年、2012年~2020年現在まで与党第1党(1855年~1993年はほとんどが単独政権)

自民党は結成されてから約65年のうち、約61年間は与党第1党である。前身を見ると戦後ほとんどの期間、政治を動かしていたと言える。

 

・イタリア

1876年から1919年は史的左派が最大勢力(1913年からは史的右派と合流した自由連合として第1党)。ただし政権は史的左派と、史的右派の間を移動

 

1946年から1994年までキリスト教民主党(キリスト教民主主義)が第1党

1946年から1994年までキリスト教民主党が与党第1党

 

これは日本に近いが、戦後から冷戦終結直後までのことであり、日本で自民党が冷戦終結後も優位政党であるのと違い、イタリアのキリスト教民主党はばらばらになり、大政党の地位を全く回復していない(イタリアについては、「日本と似ていたイタリア政治」で日本と比較した。その補足をすれば、五つ星運動が民主党と連立を組んだのは、日本では維新の会、あるいはれいわ新選組が民主党系と連立を組むのに近い)。

 

・アイルランド

1932年から2011年、そして2020年からフィアナ・フォイル(共和党)が第1党。ただし過半数を割ることはめずらしくはなく、政権交代は何度もあった。確かに、フィアナ・フォイル(共和党)政権の方が長かったが、2011年から2020年現在までは、フィネ・ゲール(統一アイルランド党)と労働との連立政権が9年も続いている。

 

・スウェーデン

1914年から2020年現在までの約106年間、社会民主労働党がずっと第1党である。それでも半数を上回ることはほとんどなく、政権交代はある。ただし1936年から1976年までの約40年は、社会民主労働党が中心の政権か、同党の単独政権が続いた。

1976年以降も、社会民主労働党中心の政権の期間が長いが、2006年から2014年まで約8年、非社会民主労働党の政権が続いた

※社会民主労働党を中心とする左派ブロックと、保守系の右派ブロックが存在していると言える。

 

・フランス

第3共和政では急進派が第1党であることが多く、第5共和政の1958年から1981年まではド・ゴール派の政党が第1党であったが、政党の定着が遅く、多くの勢力が存在したフランスでは、ド・ゴール派が一時非常に強かったものの、それらが単独で政治を動かすことは難しく、理念が比較的近い勢力と組む連合の中で、比較的強い勢力と言った位置づけであったと言える。

・ルクセンブルク

1919年から1974年、1979年から2013年まで、優位政党のキリスト教社会党を中心とした連立政権が続いている。ただし多くは社会労働党との連立である。一部は民主党との連立だが、ここに特徴がある。ほぼずっと第1党であるキリスト教社会党が、社会労働党と民主党のうち、第2党になった方と連立を組むことが定着していたのである。

基本的にはずっと大連立なのだ。1974年はキリスト教社会党が1議席差で第1党を維持したが、他の2党の連立となった(第3党の民主党が首相を出した)。

だが、2013年から2020年現在まで約7年間、民主党や社会労働党による連立政権が続いている。キリスト教社会党はまだ第1党ではあり、政権交代が定着したとまでは言えないが、総選挙を一度も越えられず3年余りで終わった民主党政権と違って、定着するのに十分な期間であると考えられる。

なお、国内に異なる言語、宗教、民族などが存在する場合、遠心力を弱めるために、主要政党が連立を組み続けるスイスのような例もある。これで政権交代がなくても、1党優位とはもちろん言えない(スイスの場合は首相に当たるポストが主要政党の持ち回りとなっている)。

アイルランド、スウェーデン、ルクセンブルクは、同一政党が日本よりも長く第1党である。しかしこれらの国々と違って日本では、自民党が過半数を下回ることはめずらしい。そして下回っても、優位政党である自民党と組みたい政党が必ず現れ、自民党が非常に優位な連立政権となる。

筆者が一番問題にしたいのは、政権交代があるかどうかだ。確かに、第1党を排除した連立政権は不健全だと言うことができる。しかし1党優位の場合、政治家も国民も、優位政党とそれ以外という見方をしやすいし、政党間の競争が、制度上はフェアであっても、実際には優位政党が有利すぎる状況である場合もある。そして何より、政権交代のない民主主義は、それでどんなに良い政治が行われたとしても、不健全だ。国民が政権を選び取るのが民主主義国だからである。人も組織も完璧なものなどないのだから、いつも同じ政党が勝つはずが、本来はない。それは言い過ぎかもしれないが、腐敗など、問題が起こりことは間違いない。政権交代なき1党優位を踏まえて、ブレーキをかける制度を設けるということも考えられなくはないし、それに近いものはあるのかもしれないが、日本では、国会(各院)の国政審査権すら、過半数を上回る自民党側に行使を阻まれる状況である。

スウェーデンの約40年間連続与党第1党という記録は確かにすごい。自民党でも、自民党が結成されてからの記録で言えば約38年間であるから、それを上回っている。だがスウェーデンも現在は違う。1976年から現在までの、そろそろ半世紀に迫る期間は、政権交代がある政治である。また、スウェーデンの優位政党は、既存の権力ではない、社民系の政党だ。かつての支配層であるような、保守系の政党が超長期政権を築く例とは、区別した方が良い。日本の保守政党も、薩長閥に対する挑戦者であったという点では、既存の権力とは違うが、それでも保守政党ではある。社民系なら超長期政権でも良いと、筆者は全く思わないが、このあたりを軽視するのも危険であると思うのだ。

最後に、もう一つ例を挙げたい。それはインドである。インドでは国民会議と呼ばれる政党が、1934年から1977年、1980年から1996年、2004年から2014年に第1党であり、国民会議の政権も、1947年(イギリスから独立)から1977年、1980年から1989年まで続いた。1977~1980年に非国民会議の政権があったが、与党内の対立によって支持を失った。このようなことは、1党優位の国ではよくある。最初の、あるいは非常に長い期間を置いた後の政権交代というのは、なかなかうまくいかないものなのである。日本の民主党政権も3年あまりに過ぎなかった。しかしインドの場合は、1996年、つまり約5年で再び政権交代が起こり、それが定着したと言える(その後、2004年から2014年まで、国民会議の政権があった)。なお、インドの例をここで挙げたのは、最初の国民会議政権期、一時的にだが野党に対する弾圧が見られたこと(これはむしろ1977年の政権交代につながったが)、ここでは見る余裕がないが、欧米の民主主義国とは様々な違いがあることによる。しかしあれだけの人口で、身分による区別が根強く残る社会で、選挙による政権交代を大きな混乱もなく定着させたことには、敬意を表したい。

日本は野党に対する弾圧がなく、むしろ野党が好き勝手やっているとすら言われる。しかしそれはあくまでも、野党が徹底的に不利な状況において、である。弾圧がなくても1党優位の状況が続けば、政権交代を阻む壁は高くなるものである。日本の野党は、与党にとって脅威でないから甘やかされているとすら言える。野党が自民党を追い詰めるのは、幼児が大人をたたくようなものだと言っても良いだろう。大人が幼児を殴ればみな嫌悪感を覚えるから、自民党はやり返さずに、我慢してやり過ごそうとするということだ。当然そのような追及を見て、国民が深刻になることもほとんどない。

日本では確かに、野党に対する弾圧はないように見える。しかし疑わしい例はある。2009年、日本でほぼ初めての、選挙による政権交代が起こることが確実視された時、野党第1党の党首(民主党の小沢代表)の周辺に検察の捜査が及び、ほとんど与党経験のなかった、その野党第1党で例外的に与党経験が豊富であった党首は、辞任に追い込まれた。結局政権交代は実現したが、それは迷走した。このことを忘れてはいけない。

このあたりでまとめると、民主主義国においても、一つの政党が何十年も第1党であり続ける例は、わずかながらある。しかしそれでも、政権交代は度々起こっている。優位政党の分裂ではなく、総選挙による政権交代が、度々起こっている。民主主義でありながら何十年も政権交代がなかった民主主義国は、確かに、これもわずかながらあった。しかし今はない。自民党の優位性、日本の政権交代の少なさ、特に選挙による政権交代の少なさは突出している。政治的な自由がすでに長期間保障されてきているにもかかわらず、政権交代がいまだに定着していない国は、日本だけだと言って良い。

このことについて、「日本の野党はだめだからな。」と、納得してしまうのは論外である。そうなってしまうだけの、少なくともそこから変化することができないだけの、ここまでに見てきたような、構造上の障壁と呼べるものがあるのだ。だいたい自民党がそんなに優れていれば、少子化はなぜここまで進んだのか、原発の事故はなぜ起こったのか、何よりバブル崩壊後、日本はなぜこれほど不調なのか。政治を天の上のことだとあきらめず、向き合わなければならない。