日本人はなぜ政権を選び取ることができないのか、考え、論じる
 
主な選挙制度のメリット、デメリット

主な選挙制度のメリット、デメリット

まず断っておくと、本当は図や表で説明すると分かりやすいが、作成に時間的がかかるので、とりあえず図表なしに、筆者ができる限り分かりやすく説明したものを、公開することにしたい。

 

日本で知られている選挙制度のメリット、デメリットを整理したいが、まず現行の制度を確認する。

・衆議院:小選挙区:1×289選挙区=289議席

・・・選挙区の候補者1人の名前を書いて投票する。1位となった候補だけが当選する。

比例区:176

…全国が11のブロックに分かれており、各党がブロックごとに比例名簿を作成、有権者は党名を1つ書いて投票する(つまり1回の選挙で、小選挙区の候補と、比例ブロックの政党に、計2回投票する)。

各党が獲得した票の割合に近い議席配分となるが、11のブロックに分かれている分、得票数が少ない政党は不利になる(例えば全国が1つの比例区であれば、なんとか1議席を獲得できる政党も、これが複数のブロックに分かれていると、同じ票数では、よほど1つのブロックに偏って票を得ているのでない限り、それぞれのブロックで1議席に届かなくなる。すると獲得議席はゼロになる)。

各党は名簿の候補者に順位を付けることになっており、比例区で獲得した議席の分だけ、順位が上の候補から当選する。ただし小選挙区との重複立候補が可能であり、重複立候補者については、同じ順位にすることも可能。同じ順位の場合は、まず当然ながら、小選挙区で当選した候補は、そちらで当選しているので除かれる。落選者同士は、小選挙区での惜敗率が高い、つまり当選者に近い票を取った候補から当選となる。各党の獲得議席に応じてそれぞれ当選者が決まるため、また、順位も付けられるため、【他党の比例復活当選者よりも惜敗率が高い候補が落選する】ということもあり得る。【ある小選挙区で2位の重複候補者が比例でも落選し、4位の、別の党の候補者が比例で復活当選する】という事もあり得る(これはデメリットに挙げられることだが、筆者はあまり問題視しないので、ここで触れるにとどめる。あまりに獲得票数が少ない候補の比例復活は問題視され、小選挙区で供託金没収となる候補については、2000年より当選不可となった)。

 

・参議院:選挙区(各都道府県が一つの選挙区)74議席×2(3年ごとに定数の半数を選ぶ)。うち1人区(3年ごとの、1回の選挙で1人が当選するという意味で小選挙区)が32。定数が複数の選挙区は基本的に与野党で議席を分け合う結果となるため、この32の小選挙区が勝敗を決することが多い。

比例区50×2(同上)全国が単一の選挙区で、政党名か、政党の比例名簿に載っている候補者一名の氏名の、どちらかを書いて投票する(どちらでも、その政党への得票として数えられる)。順位は廃止されており(非拘束名簿式)、各党が獲得した議席の分だけ、その各党の比例名簿から、個人名での得票が多い候補が、順に当選する。

 

日本の衆議院は、小選挙区制の部分と比例代表制の部分で別々に議席が決まる、小選挙区比例代表並立制である(参議院は小選挙区だけではないが、比例との並立制である点は、衆議院と同じだ)。

次に、それぞれのメリット、デメリットを確認したい。

 

小選挙区制・・・メリット:最も多くの票を得た政党の獲得議席が多めになるため、選挙後の政権が安定しやすい。

政権交代が起こりやすいとされる。

デメリット:1位しか当選しないため、死票が多くなる(仮に4人が立候補して、その得票が5:4:4:4の割合となれば、5を得た候補が当選し、残りの12が死票となる)。

日本におけるデメリット:もともと自民党が強いため、他党が多くの選挙区で1位を取るのは難しく、実は政権交代が起こりにくい(中選挙区制とは別の理由で起こりにくいが、中選挙区制よりは、選挙による政権交代が起こりやすいと考えられる。なお、導入の時は【自民党vs自共以外のほぼ全党派 (ただし共産党も自民党と組むことはない)】という構図であった。組織票を持つ公明党が自民党と組む事態は、想定されていなかったのだろう)。

※日本のような並立制だと、比例代表の部分において、中小の政党も一定の議席を得るし、小選挙区だけの場合よりも、第1、2党の議席差は小さくなる(本来の差にやや近くなる)。また、比例代表制がついていることで、第3党以下の存在でありながら、特定の宗教、イデオロギーに基づく根強い支持のある政党に、他の政党が選挙協力を求めて譲歩しなければならなくなる(自公、次いで民共連携がもたらされた)。これらの政党は、選挙の段階で、結果を左右するキャスティングボートを握る。

 

比例代表制…メリット:死票が少なく、各党の得票数の割合に近い結果となる点で、公正。

デメリット:過半数を上回る政党が現れにくく、選挙後の政権が安定しない(連立政権が模索されながら、何カ月も成立しないこともある)。

政党のみに投票する場合、有権者が候補者を選べず、議員と有権者の距離が遠く、その点で議員も磨かれにくい(小選挙区制についても日本では、例えば自民党の候補になりさえすれば当選がほぼ約束され―比例復活を含め―、その前の予備選挙もうまく機能していないという点で、議員が磨かれにくい)。

 

中選挙区制(1つの選挙区で複数の候補者が当選するが、有権者は1人だけに投票する。かつての衆議院は3人区、4人区、5人区が中心であった。『政権交代論』「疑似政権交代の背景にある自民党の多様性と中選挙区制」で扱った)

・・・メリット:小選挙区制と比例代表制の中間的な制度だとされるように、双方の欠点を薄めることができる。

デメリット:各選挙区の当選者が複数であるため、少ない議席で満足する中小政党は別としても、同じ政党の候補者同士が戦うことになる(選挙区の中を独自に区切ったり、支持団体を分け合って競合しないようにすることはできても、公明党のように大部分が宗教票であるなら別だが、完全にはうまくいかない)。すると差別化のため、同じ政党の候補者同士が、異なる政策を唱えたり、選挙区へのサービスにばかり熱を入れて、競争することになる。自民党の主要派閥が1人ずつ候補者を立てる余地があるため、派閥政治の温床となる。

政権交代が起こりにくい(第2党が政権を獲得するには、各選挙区での当選者を増やさなければいけない。しかし従来の候補の票の一部をうまく新しい候補に移さなければ成功しないし、票があまり増えなければ、共倒れになる危険もある。1党優位の日本では特にそうである)。

以上のことから、有権者の投票だけでなく、政党の選挙に関する技術、つまり政策や政権担当能力とは別の能力で、選挙結果が左右されると言える。

※自民党の主要派閥が1人ずつ候補者を立てられるという特徴が、政権交代を起こした面もないとは言えない。1993年、自民党の羽田・小沢派という一派閥(2つに分裂した竹下派の一方)が新生党を結成して総選挙に臨んだ。そして少なくない選挙区で候補者を1名当選させ、議席を増やした。これがもし小選挙区制であったなら、支持を減らしてはいても、当選する唯一の候補は、自民党であった可能性が高い(第2党の社会党は自民党以上に支持を減らしていた)。

※中選挙区制は正式には大選挙区単記制であり、議会政治の経験が長い欧米等の国々では、筆者が知る限りだが、例がない。1つの選挙区の当選者が複数の場合はあるが、例えば3人当選する3人区なら、有権者は3名の候補者に投票するのが普通だ(完全連記制)。すると例えば3人区なら、自民党も立憲民主党も3人の候補者を擁立し、自民党を支持する有権者は3名分とも、自民党の候補の名を書く。すると、小選挙区制と近い結果になる。もちろん、一人の有権者が異なる党の候補に投票する場合もあるが、それは多くの場合、自民党と公明党など、組んでいる政党、理念や政策が近い政党であると想像されるし、それで選挙結果が大きく変わるとは考えにくい。

 

次に小選挙区制と中選挙区制で、総選挙の結果がどう変わるかを考える。次の通りだと思う。今の日本は小選挙区比例代表並立制だが、その場合、下の小選挙区の特徴は、やや弱くなると考えて、問題はないだろう(本当は、国民は選挙制度の特徴を考えて投票行動を変えることがあるから、当然もっと複雑だ)。

自民党高支持率 自民党中支持率 自民党低支持率

小選挙区制  自民党圧勝   自民党大勝  自民党大敗

中選挙区制  自民党大勝   自民党勝利   自民党辛勝(わずかに敗北の可能性も)

 

小選挙区制ならば、自民党の支持率が大きく下がれば、一気に選挙結果が変わる。しかしそこまでいかなければ、つまり多少下がったくらいでは変わらない。中選挙区制は、小選挙区制とは逆に、小幅な変動は起こりやすい。しかしそれ以上の大きな変化は、非常に起こりにくい。例えば前述の通り、第2党の支持率がかなり上がって、それまで1人しか候補者がいなかった選挙区で2人に増やしても、増えた票をうまく分け合って2人とも当選させるのは難しい。それに対して自民党は、戦前の政党のほとんどが合流したものであり、票を多く得られやすい上に、各選挙区において、戦前からの地盤が、複数候補のすみ分けもある程度できるくらい残っていた。ただし、ある程度人気のある新党が、既成政党の対決に割って入れるのは、中選挙区制であり、そのようなことが起こると、既成政党の議席数も、より大きく変化する。

 

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